いらっしゃいませ。
「名作BAR」のMasterYです。
本日の名作は、『それでも町は廻っている』となります。
『それでも町は廻っている』、通称「それ町」。皆さんもどこかで聞き覚えのあるタイトルではないでしょうか。
本作品は登場人物たちの掛け合いがとにかく最高に面白いです。会話劇のテンポとセンスが抜群にいいのです。
ボケとツッコミがスピーディに入れ替わりながらも、素早い会話劇が繰り広げられていくのがとても心地良く、まるで、毎話「ザ・ドリフターズ」のコントを見ているかのようにたくさんの「笑い」をお届けしてくれます。
今回はアニメを入り口として、皆さんを「それ町」の世界へとご案内いたします。
それでは、本日の「名作BAR」開店です。
物語の概要
尾谷高校に通う嵐山歩鳥は、推理小説が大好きな女子高生である。高校入学以来、町内の「メイド喫茶 シーサイド」でバイトをしている。
そんな嵐山歩鳥のありふれた日常 (!?) の中にある特別なひとときを切り取った物語である。
本作の魅力
「それ町」は、1つのジャンルに縛ることが非常に困難な作品である。石黒正数のSF (少し不思議な) 劇場であると言ってもいいだろう。
これは「日常 × ミステリー × SF」など様々なジャンルを組み合わせた作品なのである。
アニメ版も原作と同じように、物語の時系列がシャッフルされており、何度でも楽しめるように設計されていて非常に楽しい。
1話1話のクオリティが高く、アニメならではの演出もキラリと光る作品に仕上がっていて、「何気ない日常の中にある特別な瞬間」を描くのがめちゃくちゃ上手な作品であった。
次回予告がこれまた非常に凝られているところも面白い。次回のタイトルにちなんだ会話劇を登場人物たちが繰り広げてフェードアウトしていく。
しかもこの会話シーンは、なんと次回予告にしか出てこない。これが非常に面白くて、大のお気に入りとなってしまった。
次回予告のためだけのオリジナル要素を入れてくるなんて、めちゃくちゃ力を入れている作品じゃないか。
原作のように細かいところまで遊び心を行き届かせた楽しい作品だ。
声優さんの話
歩鳥役の小見川千明さんの声は、思っていたよりも高かった。原作を読んでいてイメージしていた歩鳥のイメージとは少し合わなかったのだ。
なので、1話目を見たときには、正直なところあまりこの「それ町」に乗れていなかった‥。
しかし、話数を重ねていくごとに「低い声で話す歩鳥」や「怒っている歩鳥」の演技に「歩鳥っぽさ」を見出し、段々小見川さんの声にハマっていく自分がいた。
おそらく、歩鳥を演じるのは誰がやっても難しいだろう。精一杯自分なりの歩鳥を模索して見事に演じ切った小見川千明さんは、本当に素晴らしい声優さんであった。
「最初乗れなくてごめんなさい!!!」
歩鳥以外のキャスティングに関しても、見事にそれぞれのキャラにぴったりと当てはまっていたように感じる。
特に、ウキ役の櫻井孝宏さんの熱演は要チェックである。お婆ちゃんの役であるにも関わらず、変幻自在の華麗な演技をお披露目してくれている。
この演技は、確実に視聴者の目と耳を喜ばしてくれるはず。
ウキの喋りが、原作のイメージ通りすぎて笑ってしまったほどだ。櫻井さんの演技の幅はものすごく広いなあと驚いてしまった。
私の1番好きなエピソード
8番地「全自動楽団」が私の1番好きな話である。前半の「全自動世界」はアニメだけのオリジナル回だ。
上手く原作の「それ町」の世界観を引き継いでいたのが素晴らしかった。自動販売機のあるコインランドリーで雨宿りをする話だ。
うどんの自動販売機が斬新すぎて面白い。コインランドリーにあんなにも食べ物の自動販売機があれば、良い時間潰しになるよなあ。
こんな素敵なコインランドリーが日常にある歩鳥たちを羨ましく思ったものだ。「都会のオアシス」と歩鳥がコインランドリーを評していたことも容易に頷ける。
そして後半の「迷路楽団」は、歩鳥たちの学園祭を描いた話である。これは個人的に12話の中でも1番お気に入りの回。原作を超えたんじゃないか?と密やかに思っている。
「そうは云っても世界は終わらない」。これが学園祭で歩鳥たちのバンド「メイズ」の歌った曲だ。
紺先輩のロックな歌声とそのメロディラインに乗った独特な歌詞が見所である。紺先輩以外のメイズメンバーも歌っているところが意外だったなあ。
この伝説の学園祭でのメイズの演奏の長尺バージョンを音楽として聴ける日が来るとは。独特な演奏の虜になってしまうことには注意が必要だ。
アニメだけのオリジナル楽曲が作られていたことが素直に嬉しい。
原作の歌詞のエッセンスを取り入れながら、メイズの演奏を表現し切ったシャフトの力はやっぱりすごいよ。
シャフト制作アニメの音楽はどれも耳に残って面白い曲が多いなあという印象が強い。この8番地はアニメの良さを最大限活かしきったおすすめすぎる1話である。
原作ファンにもこの回だけは是非とも観てもらいたいもの。
この「メイズ」の演奏を映像化してくれただけでも、「それ町」のアニメ化は成功だったのでは?
おわりに
最終回に「それでも町は廻っている」を配置させるとは、本当にシャフトさんはこの作品のことをよくわかってらっしゃる。
12話しかない中でこの話以上に「それ町」の最終回を飾れる話はないであろう。
原作では2巻に収録されている話なのだが、この原作の順番をシャッフルさせて、アニメなりのオリジナルも加えて映像化した意義はとても大きい。
「それ町」の世界に触れてしまうと、無性に推理小説を読みたくなってくる。
どうやら、歩鳥の「探偵脳」に私も毒されてしまったようだ。久しぶりに東野圭吾の作品を読んでみることにしようか。
本日の名作『それでも町は廻っている』
【キャスト】
嵐山歩鳥:小見川千明、紺双葉:矢澤りえか
辰野俊子:悠木碧、真田広章:入野自由
磯端ウキ:櫻井孝宏
針原春江:白石涼子
森秋夏彦:杉田智和、西先生:戸松遥
嵐山猛:田村睦心、嵐山雪子:仙台エリ
嵐山雪美・ジョセフィーヌ:松来未祐、嵐山歩:小野友樹
亀井堂静:雪野五月
【スタッフ】
原作:石黒正数「それでも町は廻っている」少年画報社
キャラクターデザイン・作画監督:山村洋貴
音響監督 : 亀山俊樹
シリーズ構成:高山カツヒコ
副監督:龍倫直征
総監督:新房昭之
アニメーション制作:シャフト
製作年:2010年
石黒正数『それでも町は廻っている』少年画報社
アニメを入り口にマンガの「それ町」へ飛び込んでみてはいかがでしょうか。最高の世界があなたを迎え入れてくれますよ。
「それ町」は完結してからも、読者の心の中で廻り続けることになります。
関連作品①『ひだまりスケッチ』
『ひだまりスケッチ』(2007)
原作:蒼樹うめ「ひだまりスケッチ」芳文社
シリーズ構成:長谷川菜穂子
総監督:新房昭之
アニメーション制作:シャフト
「シャフト × 時系列シャッフル」作品の第1弾。「それ町」のように女子高生たちの日常を描いた物語である。
原作は『魔法少女まどか☆マギカ』のキャラクターデザインを務めた蒼樹うめ。原作は時系列シャッフルされていないことに驚く人も多いはずだ。
アニメでは、2期になってようやく「ひだまりスケッチ」の1話が放送されることになる。
365日ある中から切り取られた「ゆの・みやこ・さえ・ひろ」たちの 1日1日の出来事を見ているだけで視聴者の心が癒されていく。
日常を描いた作品の中でも本作ほど実家のような落ち着きを感じることのできる作品はないのではないか。
4期まで制作された超人気作で、いまだに根強いファンが存在する。
日常系というジャンルを確固たる地位に押し上げた記念碑的作品である。
関連作品②『藤子・F・不二雄 SF短編集』
石黒作品は「SF=少し不思議」な作品が多い。作者のF先生への熱烈なリスペクトの気持ちを「それ町」の至る所から感じたものだ。
もしいまF先生がSF短編を描いていたら、こんな作品を描いていたのかな。それに1番近い雰囲気を纏っているのが、石黒作品。そのように私はいまも思い続けている。
F先生のSF短編集が好きな人ならば、「それ町」の世界観と相性がバツグンにイイはずだ。私にはドストライクでした。
関連作品③:「それ町」探検MAP
石黒正数 (2008) 『探偵綺譚 石黒正数短編集』徳間書店
「それ町」企画段階の頃に描かれた「アナザーそれ町」が読めるのは本作だけ。表題にもなっている「探偵綺譚」に歩鳥と紺先輩が登場する。
このエピソードから「それ町」は始まったと言っても過言ではない。
「それ町」と併せて味わってみると、設定の違いを楽しむことができるのでおすすめだ!
「それ町」の中に漂う「ザ・ドリフターズ」のDNAもここにあり。
他にもTVドラマ『世にも奇妙な物語』の原作となった作品も収録されている有意義な1冊となっている。
巻末に石黒先生による自作品解説が載っているのがかなり嬉しい。
石黒正数 (2010) 『ポジティブ先生 石黒正数短編集』徳間書店
嵐山歩鳥の「エピソード0」が収録されている歩鳥ファン必見の1作。
本作収録の吸血鬼マンガ「夜は赤い目の世界」の中で、嵐山歩鳥は産声を上げた。石黒先生の初期作品がたくさん読める素敵な短編集となっている。
こちらも石黒先生の自作解説がたっぷり読めるよ。
石黒正数 (2017)『それでも町は廻っている 公式ガイドブック廻覧板』少年画報社
「それ町」を1巻~16巻まで駆け抜けた人にとってはマストアイテムなのが、この廻覧板。
今回私がおすすめさせて頂いた「メイズ」の舞台裏を描いた単行本未収録作品も収録されている!
作者による「それ町全話解説」がなされた「再読の手引き」の存在が、最大の魅力だ。
この本を片手に「それ町」の世界を冒険するのが最高に楽しい。「それ町」ファンにとっては、ヨダレが止まらない1品となっている。
「それ町」の世界に惹かれた方は、
「アニメ → マンガ → 廻覧板」の順に冒険してみるのはいかがでしょう?
それでは、次の名作でお待ちしております。
コメント
面白い事件は必ずしも必要ないんです
何気ない日常もズームして、視点を変えるだけで面白くなりますよね
3作品目でアニメを紹介されるとは、これからいくつの名作に会わせてくれるのかワクワク…(^_^)
まおさん、コメントありがとうございます!
まさにそうですよね!
ありふれた日常の中にも、切り取り方によっては「面白い事件」って何気に溢れていますよね。
名作にジャンルの境界線は必要ないと考えています。
ですので、これからも「面白い作品」であれば、
いかなるコンテンツであっても紹介していくつもりです!
次はどんな作品が選ばれるのかな。
そんな風にドキドキワクワクの気持ちで
次の記事を待っていただけると嬉しい限りです。