いらっしゃいませ。
「名作BAR」のMasterYです。
本日の名作は、『ライフ・イズ・ビューティフル』となります。
原田マハさんの『キネマの神様』という小説の中で、「イタリアの感動名画 豪華二本立て」として『ニュー・シネマ・パラダイス』と『ライフ・イズ・ビューティフル』が「テアトル銀幕」という名画座で上映されていました。
私はそれを読み、「『ライフ・イズ・ビューティフル』は観たことがない。
一体どんな素晴らしいイタリア映画なのだろう」と心躍らせながら、近所のレンタルショップへと走りました。
それが本作との運命的な出会いとなったのです。
あの時この作品に出会えて本当に良かった。『キネマの神様』には、言葉では言い表せないぐらい感謝しています。
名作との出会いはいつも突然にやってくる。だからこそ、作品をめぐる冒険は楽しくて仕方がない。
それでは、本日の「名作BAR」開店です。
物語の概要
第二次世界大戦前夜の1939年、ムッソリーニ政権下のイタリア。それが本作の物語の舞台だ。
ちょっぴり変わってはいるが、何事にも前向きで陽気なグイドは、美しい教師のドーラに一目惚れする。
彼は手を変え品を変え、ドーラに猛アタックをし続けた。
そして、ついにグイドの思いは成就し、2人は結婚する。
数年後、2人の間にジョズエが生まれ、幸せな日々を過ごしていた。
しかし、物語はジョズエの誕生日に急展開する。
グイドはユダヤ系のイタリア人であり、そのことがドイツ軍に見つかってしまったのである。
彼に強制収容所への収監命令が下った‥。
私は本作を陽気なイタリア人が繰り広げるドタバタコメディ映画だと完全に思い込んでいた。
それぐらいグイドとドーラの出会いから結婚までのエピソードが、面白いものであったからだ。
だから私は、2人が結婚してからは「このままグイド家の幸せな日常が続くほっこりした映画なのかな」と予想していた。
しかし、この私の予想は見事なまでに外れてしまう。
第二次世界大戦中の物語であることをすっかり忘れてしまっていたのだ‥。
最愛の息子へ優しいウソを
「1000点集めると、戦車がもらえる」。これは父グイドが愛する息子ジョズエについた優しいウソだった。
強制収容所のことをまだ知らない息子を不安にさせたくない。
持ち前の武器であるユーモアを最大限駆使することで、不安を少しでも和らげてあげたい。
そういう思いで「誰にも見つからず隠れていることができたら点数がもらえる」というゲームをグイドは思いつく。
そしてこのゲームをジョズエに話して「1000点集めたら、戦車がもらえる。それに乗っておうちに帰れるよ」と希望を与えるのである。
強制収容所から生き残った心理学者フランクルは、強制収容所で生き延びる方法として以下のように述べている。
強制収容所の人間を精神的に奮い立たせるためには、まず未来に目的をもたせなければならなかった。
ヴィクトール・E・フランクル『夜と霧』みすず書房
結果として、グイドの考えたこのゲームは、ジョズエだけでなく自分自身に対しても「未来の目的」を与えることになったのである。
ここからジョズエにウソだと見破られないようにグイドが奮闘する日々が始まる。
時には命懸けの行動さえも厭わない父親の行動にはとてつもない「愛」を感じ、心が激しく震えた。
1人の父親として心の底から素晴らしい。そう思える姿がそこにはあったのだ。
私には子供を持った経験がないので、子供を持つ親の気持ちを本当の意味では理解しているとはいえない。
だからこそ、結婚して子供を授かったときにもう一度この映画を観てみたい。
この映画から受け取るメッセージが今とは随分違っているはずだ。
そのとき私は一体どんな感想を抱くのだろう。再び感想を書く日が待ち遠しいばかりである。
今は今にしか生み出せない感想を大切にし、人生の節目節目で自身の変化を確認していきたい。
これもまた名作を味わう醍醐味の一つではなかろうか。
おわりに
私が1番感動したのは、収容所でグイドとジョズエが所内放送をドイツ兵にバレないよう巧みに使い、ドーラにどんな状況でも変わらぬ愛の気持ちと息子の安否を知らせた場面である。
自然と涙が出てきた。父グイドの家族を人一倍思う気持ちがおそらく私に涙を誘ったのだろう。
自分を待っている仕事や愛する人間にたいする責任を自覚した人間は、生きることから降りられない。まさに自分が「なぜ」存在するかを知っているので、ほとんどあらゆる「どのように」にも耐えられるのだ。
ヴィクトール・E・フランクル『夜と霧』みすず書房
まさにグイドは、愛するジョズエを守るため、そして愛するドーラのために最後まで生き延びる道を選択し続けたのだ。
グイドという父親は強い。
どんな状況に陥っても、常に前向きで明るく饒舌でなおかつ家族のことを一番に考えている。
このグイドのようなハートの強さを持ち合わせた人間になりたいものだ。
この素晴らしいグイドの役を軽やかに演じ切るだけでなく、自ら脚本・監督まで務め切ったロベルト・ベニーニに改めて盛大な拍手を送りたい。
「イタリアのチャップリン」と称される彼の素晴らしい演出の数々が、観客たちに最高の映画体験をお届けしてくれるのだ。
さて、イタリア映画らしく最後を締めくくろうではないか。
「グラッチェ!!!」
本日の名作『ライフ・イズ・ビューティフル』
【キャスト】
グイド:ロベルト・ベニーニ
ドーラ:ニコレッタ・ブラスキ
ジョズエ:ジョルジオ・カンタリーニ
ジオ叔父さん:ジュスティーノ・デュラーノ
フェルッチョ:セルジオ・ブストリック
ドーラの母:マリサ・パレデス
レッシング医師:ホルスト・ブッフホルツ
【スタッフ】
製作:エルダ・フェッリ、ジャンルイジ・ブラスキ
音楽:ニコラ・ピオヴァーニ
脚本:ヴィンセンツォ・セラミ、ロベルト・ベニーニ
監督:ロベルト・ベニーニ
【作品情報】
製作国:イタリア
製作年:1997年
上映時間:117分
参考文献
ヴィクトル・E・フランクル『夜と霧』みすず書房
「心理学者、強制収容所を体験する」。この冒頭の文章に私はものの見事に惹きつけられた。
倫理の教科書に載っているほど著名な心理学者フランクルが綴った「強制収容所体験記」である。
彼は著書の中で、「与えられた環境の下で、いかに振舞うか。この人間としての最後の自由だけは誰にも奪うことはできない」ことを証明した。
強制収容所での自分の体験をただ回想するのではなく、可能な限り客観視して描いているところが最大の特徴だ。
彼は心理学的視点から収容所生活で起きたことを見事に分析してみせた。
いまの私たちが、当時の収容生活のリアルを知るための一助となる珠玉の1冊。
『ライフ・イズ・ビューティフル』と併せて味わいたい名作だ。
関連作品:原田マハ (2013) 『キネマの神様』文春文庫
冒頭でも少し触れたが、私と『ライフ・イズ・ビューティフル』を引き合わせてくれた作品がこの『キネマの神様』である。
また、私が映画の感想を書き始めるきっかけとなった思い出深い作品でもある。
「映画館で映画を観ることの大切さ」を原田マハさんの映画愛溢れる素敵な文章で味わえる。そんな映画好き必見の1冊となっている。
『キネマの神様』の主人公が劇中で鑑賞したイタリア名画は『ニュー・シネマ・パラダイス』。私も大好きな作品だ。
本作を読むと、『ニュー・シネマ・パラダイス』を鑑賞&その感想を書きたくなってしまう衝動に駆られる。もちろん、私もその一人だ。
ありがたいことに、『ニュー・シネマ・パラダイス』を映画館で観るという至福な経験をさせて頂いたので、別の記事でそちらの話を語らせていただきたく思う。
主人公の歩が父の映画日誌に触発されて感想を書いたように、本作を読んでから私も観た映画の感想を本格的に書き始めた。
これは私をただの映画好きから脱皮させてくれた大切な作品である。
それでは、次の名作でお待ちしております。
コメント
Masterはこの記事で「未来の目的」を私に与えてくれました。
それは映画の楽しみ方を教えてくれたこと。
映画に出会う時の感情や経験値によって映画から受け取るメッセージが変わってくる。
映画を観るタイミングは人それぞれで正解はない。
だがその時の感想を大切にし、人生の節目での自身の変化を楽しむ。
将来、また観たい映画が増えましたね。未来に目的が持てました。
まおさん、コメントありがとうございます!
この記事で、「映画の楽しみ方」をまおさんに少しでもお届けすることができていたなら、大変嬉しい限りです。
映画を観るタイミングって、本当に人それぞれですよね‥。
そのときの自分にとって大切な作品と信じて、
これからもたくさんの作品と出会っていきたいものですね!