いらっしゃいませ。
名作BARのMasterYです。
本日お届けするメニューは、私が2023年1月に「第29回小諸・藤村文学賞」へ応募したエッセイ作品でございます (↓URLは第30回募集のもの)。
残念ながら入賞はしなかったのですが、初めての投稿作品として思い入れのある作品となりました。
久しぶりに「金魚すくい」がやりたくてたまらない。そんな気持ちに少しでもなってもらえれば嬉しいです。
それでは、本日の「名作BAR」開店です。
はじめに 〜金魚すくいが掬ったモノ〜
「作品が多すぎて、何を観れば (読めば) 良いのかわからない」。Amazon等のネットショッピングや動画配信サービスの好調ぶりとは裏腹に、このような声を周りの友人から聞く機会が増えてきた。
本・映画・ドラマ・音楽など、ジャンルも多岐にわたるがゆえに、「コンテンツの森」に迷い込んでしまう人も多いはず。そこで私は立ち上がった。
「名作と呼ばれる作品を観たい!」。そんな方に向けて「この作品は名作ですよ」と案内する。この素敵な役割を果たすため、私は「名作BAR」というブログサイトを昨年立ち上げた。
時とジャンルの垣根を越えた名作から名作への橋渡しが私のブログで掲げているメインテーマである。
今回はそんな私の「作品をめぐる冒険」で巡り会った1つの作品を出発点として、「作品同士をめぐる冒険」を皆さんにも追体験してもらいたい。
『ちびまる子ちゃん』「金魚すくいに情熱を」の巻
皆さんご存知の国民的作品『ちびまる子ちゃん』。その中で、私には小さい頃から愛してやまないエピソードがある。それが1992年7月26日放送の「金魚すくいに情熱を」の巻である。
なぜか大人になってからも定期的に見返したくなる衝動に駆られる。そんな中毒性バツグンの作品だ。
そして今回の私のお話というのも、お正月に家族と何気なくこのエピソードを鑑賞したことをきっかけに始まるのであった…。
まずは、「金魚すくいに情熱を」のあらすじを説明させていただく。
ある日、まる子とお姉ちゃんとおじいちゃん (友蔵)の3人は、誰が一番金魚すくいが上手いかで言い争いをしていた。そして勝負で決着をつけるため、街まで金魚すくいをやりに行くことに。
各々が今まで磨いてきたテクニックをお披露目し合い、さくら家による「金魚すくいバトル」はデットヒート。結局、この日は引き分けで幕を閉じる。
勝敗は後日開催のリターンマッチで決める。このリターンマッチの行方はいかに!?といったところ。
金魚すくいに暑苦しいほどの情熱を注ぐ者たちを愉快に描いた爆笑必至の作品となっている。
前半戦の話だけを切り取っても相当に面白い。
しかし、私がこのエピソードをいつまで経っても忘れることができないのは、後半から登場する最強の「刺客」の影響がとてつもなく大きい。
後半戦の勝負ほど熱量を帯びた金魚すくいバトルは、後にも先にも『ちびまる子ちゃん』だけでしか見たことがない。
こんなところで、人生で何回あるかわからないほどのデッドヒートをしてどうする、この人たち。なんて毎回見て思うのだけれども。
「金魚すくいに情熱を」私の1番好きな場面
3人の見せ場が多い前半戦が個人的には昔から好きだ。特に友蔵のテクニックお披露目ショーが大好きでたまらない。
前半の勝負中、友蔵のポイに半分穴が空いてしまう。このときまる子に「もうおしまいだね」と勝ち誇ったように煽られるのだが、友蔵はこう切り返す。
「フッ、バカめ。勝負はこれからじゃ。アミなんて半分のこってりゃ充分じゃわい」
そして、半分のポイで一匹の金魚を華麗に掬い上げてみせるのだ。こんなにカッコいい友蔵を私は見たことがない。
さくらももこエッセイ作品との関連性
「金魚すくいに情熱を」の脚本を担当していたのは、原作者のさくらももこさん本人であった。
しかも、彼女が金魚すくいについて並々ならぬ思いを持っていることを、『さくらえび』というエッセイの中で偶然発見した。
大人になってもその情熱はいまだ冷めていなかった様子がうかがえて、「金魚すくいに情熱を」をライフワークにしていたことが伝わってきた。
そうでなくっちゃ、こんな熱い物語を金魚すくいを題材で描けるはずがないんだよ。
金魚すくいを題材にしたマンガ『すくってごらん』
さくらももこさん以外に「金魚すくい」を題材にした作品はないか探してみたところ、ついに1つの作品に巡り会えた。『すくってごらん』という少女マンガである。
物語の舞台は金魚を名産とする「奈良県大和郡山市」。このことが私を惹きつける最大の決め手となった。
何を隠そう、私の母校は城としての貫禄がたっぷり残った「奈良県立郡山高等学校」であったからだ。
私はそこで3年間サッカー部に所属し、「文武両道」という名の険しい悪路を懸命にひた走った。
高校時代を振り返るときには、いつも真っ先に私の前に現れる場所がある。それが「鰻堀池」だ。夢の中に幾度か出てくるほど大きな存在感をもっていた。
鰻掘池は、郡山城築城の際に、お城の内堀としても利用されていた郡山の名所である。そんな名所が、私たちサッカー部によって、新たな役割を与えられてしまう。
なんと、池の周りが「地獄のタイムアタック」の場として利用されていたのである。コース名はもちろん「うなぎ」。
高校3年間で何千周したかわからない。私たちの忍耐力を嫌というほど鍛え上げてくれた忘れられない「お堀」である。何年経ってもこの記憶だけは色褪せることなんてない。
それでは、「うなぎ」から「きんぎょ」の話に戻ろう。
『すくってごらん』の主人公は、エリート銀行マンだったが、あるミスをきっかけに金魚の街大和郡山市に左遷された香芝。
彼が金魚すくいに出会い、金魚すくい仲間たちとアツき闘いを繰り広げていく成長物語だ。
「金魚すくいに団体戦があること」、「金魚すくいに全国大会があること」、「大会では3分間ですくった数を競うこと」、これらの情報を私はこの作品で初めて知った。
金魚すくい界の甲子園は、「大和郡山市」にあったのだ。そこで選手たちが競い合うのは、得点の数ではなく金魚の数。
3分間だけの「熱闘甲子園」が夏の郡山市を賑やかせる。カップ麺にお湯を注いで完成を待つ間にも、金魚すくいチャンプは出来上がっていく。
「金魚すくいに情熱を」と『すくってごらん』との出会い。この組み合わせは私の「ふるさと」スイッチを全力で押してくれた。
これは久しぶりに大和郡山市に行ってみるしかない。そう思ったときにはもう既に地元の友人に誘いをかけていた。
トントン拍子に事は進み、3日後に「コオリヤマン・ラプソディ」へと出かけることになった。
思い出の地「大和郡山市」へ再訪
私たちは、まる子たちが「こまつ屋」の金魚すくい専門店へ訪れたように、大和郡山市にある金魚すくい道場「おみやげ処 こちくや」へ行ってきた。『すくってごらん』の取材先の金魚すくい屋でもある。
もちろん目的は、金魚すくいに決まっている。友人と私は1回の料金を支払い、2つのポイを手にして「金魚すくい道場」へと足を踏み入れた。
「さてさて、まる子たちのように金魚をヒョヒョイのヒョイと掬って周りを沸かせるか」。そう思い、いざ金魚たちと対面。
すると、手元の武器が頼りなさげに見えてしょうがない。「金魚ってこんなにもイキイキと泳いでいたのか」と開始早々、金魚に気持ちで負けてしまった。
そんな私を横目に次から次へとイキのいい金魚を掬っていく友人。一匹も掬えず、呑気に金魚たちとにらめっこしている私の顔が水面に情けなく映し出される。
さすがにこれでは泳いでいる金魚にも申し訳ないと思い直し、大胆にアタックを仕掛ける案が脳内国会を通過した。
頭の中で今まで出会ってきた作品の金魚すくいノウハウが駆け巡る。
「よし、イメージ通りだ。キミに決めた。掬わせてもらうよっ!」
それは一瞬の出来事であった。なんと、私にも友蔵のようにポイの半分に穴が空いてしまう状況が早くも訪れてしまったのだ。
しかし、私はすでにこの状況も追体験済み。まさにこの時、友蔵の不適な笑みが脳裏にフラッシュバックしてきたのだ。
その友蔵効果もあってか、今まで見たことのないような手捌きで金魚を掬うことができた。これにびっくりしたのは、私ではなくすくい上げられた金魚であることに異論はないであろう。
「金魚屋泣かせの友蔵ちゃん」のソウルが私に乗り移ったとしか思えない。そんな奇跡的な光景が目の前で起こったのだ。
さっきまでモタモタと水の中で海藻の如くゆらゆらとしていた障害物。そいつがまさか空から突然現れたUFOの如く素早い動きで、空中へ放り投げるとは…。
普段は冷静沈着な私もこの時ばかりは調子に乗った。「うぉっしゃぁぁ、みたかあぁぁ!!ここからの金魚すくいが一番面白いんじゃ」と少しばかり熱くなる。
そして、私の掬いが本当に奇跡であったことが数秒後によくわかった。
この金魚すくい道場は、年中営業しているので、夏以外の季節でも金魚すくいがしたくなったら、ぜひ一度訪れてみてはいかがだろう。
終わりに 〜金魚すくいは思い出を掬う〜
いままで当たり前のように過ごしてきたはずの風景。それは思い出へと姿を変えて、ある日突然自分の元へと帰ってくる。
今回私が作品から作品へと渡り歩いてゆく旅を通して得たものは、まさにこの「思い出」の再発見に他ならない。
3年間通い続けたおなじみの「大和郡山市」とはまた一味違った魅力的な風景が、再訪した私を待ってくれていた。
日常に隠れる思い出の地の魅力は、非日常になった今だからこそ見つけてあげられたのかもしれない。
金魚すくいですくった金魚の数よりも、大和郡山市の「思い出」掬いの数の方が多い旅であったとも言える。
私の郡山の思い出に「うなぎ」だけでなく、「きんぎょ」のページが新たに追加されたことが何より嬉しい。
作品から作品へと楽しい旅を繰り返していくうちに、自らのルーツを辿る旅になっていくなんて思いもよらなかった。
冒頭でもお話ししたが、私は日頃から今回体験したような作品から作品への橋渡しとも言える「作品リレー」を大切にしている。
この「作品リレー」を一人でも多くの人に味わってもらいたい。そんな情熱が、今回の旅を通してメラメラと自分の中で燃え上がってきたのを感じた。
作品同士の素敵な巡り合わせを皆さんに案内できるように、私は今日も「作品をめぐる冒険」へと出かけていく。
おしまい
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