いらっしゃいませ。
「名作BAR」のMasterYです。
本日の名作は、
『未知との遭遇』となっております。
大画面に大迫力で
映し出される「マザーシップ」。
この鮮やかな登場ぶりに、
私は登場人物たちと同じように、
この船を見上げてしまいました。
今見ても全く色褪せることのない
本作の力に圧倒されたのです。
「スピルバーグ監督の想像力は
一体どうなってるんだ!?」と。
それでは、本日の「名作BAR」開店です。
物語の概要
物語は電気技師の
ロイ・ニアリー(リチャード・ドレイファス)が、自分の住むインディアナ州マンシー近くの空にUFOを目撃したことから始まる。
次々と驚くべき出来事が
彼のまわりで起こっていき、
妻子や仕事、そして彼自身の存在にまで
影響していく。
本作は人類と宇宙人が初めて
「コンタクト」を取るまでを描いた
壮大な物語である。
本作の魅力
なんとこの作品、
「異文化との交流」というテーマを
宇宙空間にまで拡大し、
「異星人」との交流を描いている。
そして、本作では描き切れなかった
人類と宇宙人との間で芽生える「友情」は、
後に『E.T.』で描かれることになる。
スピルバーグ監督は、
よくこんな話を思いついたものだ。
その思いついた話を、
これほどまでのクオリティで映像化できた
という才能が、本当に素晴らしい。
しかも70年代に…である。
また、本作はキャストについても魅力満載だ。
主演のリチャード・ドレイファスは、
スピルバーグ監督の前作『ジョーズ』で
檻の中に入ってサメと対峙した
若き海洋学者フーパ―役からの大抜擢。
ある日『ジョーズ』の撮影が
『未知との遭遇』パンフレットより引用
終わったあとで、スピルバーグが
次の企画の話をしてくれた。
しかし、その物語にはドレイファスが演じられそうなキャラクターは
登場してこなかった。
主役の男は、
もっと年配だったのである。
最初の構想段階では、
ロイは年配の設定であったが、
ドレイファスの
『未知との遭遇』へ出演したい
という熱意に押されて
スピルバーグ監督は主役の部分を
書き直したのである。
そして極めつけは、
フランスの超有名監督
フランソワ・トリュフォーが
出演していることである。
彼はUFOの謎を解明しようとする
フランスの科学者ラコーム役で
出演している。
この役は、スピルバーグ監督が
トリュフォーのために書いた役であった。
スピルバーグは、
『未知との遭遇』パンフレットより引用
トリュフォーが出演もしている作品『アメリカの夜』を観て、
彼のためにスクリプトを書き始めた。
「彼を見た時思ったんだ、
これぞラコームだってね」と
スピルバーグは語る。
製作陣はスピルバーグ監督の人選に
大賛成であったが、
トリュフォーに出演してもらえるのか
という問題をクリアしないといけなかった。
そもそもトリュフォーが
俳優として出演するのは、
自身の映画でのみ。
アメリカ映画になんて
もちろん出たことがない。
さらに、彼自身が多忙を極める
映画監督でもあるのだ。
しかし、半ばダメ元で
スピルバーグ監督が
トリュフォーへ電話をかけてみると、
台本を送ってくださいと返事が来る。
そして、その翌週に製作陣に対して
興味があると伝えたのであった。
当時を振り返ってトリュフォーは
次のように語る。
「スクリーンを読んだとき、
この役ならやれると思いました。」「またスティーブンの作品も
『未知との遭遇』パンフレットより引用
知っており、彼を信頼して
いました。ほかの監督作品で
演技をしようとは
夢にも思っては見ませんでした。」
こうしてラコームという
名キャラクターが産声をあげたのである。
後にも先にも彼が、
アメリカ映画で俳優として出演したのは
『未知との遭遇』だけ。
名作は脇を固める俳優陣にも
映画のような素敵なエピソードが
たくさん存在する。
これだから名作を巡る旅は
やめられないのだ。
オリジナル版とファイナル・カット版とのちがい
『未知との遭遇』には、
いくつかのバージョンが存在する。
今回はその中でも午前十時の映画祭で
上映された『ファイナル・カット版』と
劇場初公開のオリジナル版の違いを説明する。
ファイナル・カット版では、
ロイが何の会社で働いているのか
明確な描写がなかった。
しかし、1977年に公開された
オリジナル版では、ロイの働いている
シーンがはっきりと描かれている。
「彼は発電所で働いていたのか」
ということが判明したのだ。
そこでは、発電所で責任者から
直々の指令を受けたことで、
彼はUFOと遭遇するという
人生の転換期を迎えることになった
経緯がわかる。
ロイは何の仕事を失ってしまったのかが
わからないままであったので、
オリジナル版を観て非常にスッキリした。
この点については、
ファイナル・カット版でも
触れていてほしかったものだ。
ただし、ロイと息子とのやり取りに関しては、「オリジナル版」よりも
「ファイナル・カット版」のほうが
断然わかりやすいものになっていた。
「父親を失う子供」の描写を
ファイナル・カット版では
丁寧に描いていたからである。
例えば、次の場面が
その象徴的なシーンであろう。
「UFO」と遭遇してからというもの、
ロイは情緒が不安定となり、
家族の前でもすぐに泣いてしまう。
この情けない父親の変わり様に
耐えきれない息子がロイに対して、
「泣き虫ヤロー!」と何度も叫んでしまう
という場面があるのだ。
ロイが父親の威厳を失った瞬間だろう。
「父親の消失」を、
スピルバーグ監督は再編集の際に
描きたくなったのかもしれない。
私の1番好きな場面
ラコーム(フランソワ・トリュフォー)が
リーダーの「異星人接触のためのプロジェクト集団」と「マザーシップ」が、
5つの「音」だけで会話をするシーンである。
なぜ5つの音だけが用いられるのか。
それは、「人類」と「宇宙人」との間に
共通していた音が、
5つの音しかなかったから。
ただそれだけの理由だ。
初めはゆっくりと進行していく
この「音」による会話は、
次第にスピードが増してくる。
そして、この会話はいつしか、
「音」ではなく、「音楽」へと変貌を遂げる。
こうして交わされる
「人類」と「宇宙人」との会話は、
ユーモア溢れる本作屈指の名場面であろう。
よくこんなシーンを思いついたものだ。
音楽のようなこの会話には
思わず笑みがこぼれてしまう。
「基本的な言葉の音を教えてくれる」。
「(宇宙人による)最初の授業だ」。
この辺りのプロジェクトメンバーの
セリフも絶妙にいい。
宇宙人に対して敵対意識を
持っていないのが伝わってきて、
非常に好感がもてるのだ。
多くの人は、このシーンを見て
思わず頬が緩んでしまうことだろう。
おわりに
「UFO」の形態やスピード感。
大画面に映し出される
「マザーシップ」の迫力や美しさ。
そして、「人類」と「宇宙人」との交流。
本作以降の作品で、
これらの影響を受けていない作品は
おそらくないのではないか。
この作品が後世に与えた影響は計り知れない。
「午前十時の映画祭10ファイナル」。
その大事なオープニングを飾ったのが、
本作であった。
これほどオープニング作品として
相応しい作品はないんじゃないかと
素直に思ったものだ。
本日の名作『未知との遭遇』
原題:CLOSE ENCOUNTERS OF THE THIRD KIND
【キャスト】
ロイ・ニアリー:リチャード・ドレイファス
クロード・ラコーム:フランソワ・トリュフォー
ロニー・ニアリー:テリー・ガー
ジリアン・ガイラー:メリンダ・ディロン
バリー・ガイラー:ケイリー・グッフィ
ディビッド・ローリン:ボブ・バラバン
プロジェクト・リーダー:J・パトリック・マクナマラ
ワイルド・ビル:ウォーレン・ケマリング
農夫:ロバーツ・ブラッサム
ジャン・クロード:フィリップ・ドッズ
ブラッド・ニアリー:ショーン・ビショップ
シルビア・ニアリー:アドリアンヌ・キャンベル
トビー・ニアリー:ジャスティン・ドレイファス
ロバート:ランス・ヘンドリックセン
チーム・リーダー:メリル・コナリー
ベンチリ―少佐:ジョージ・ディセンゾ
【スタッフ】
製作:ジュリア・フィリップス、マイケル・フィリップス
脚本・監督:スティーブン・スピルバーグ
撮影監督:ビルモス・ジグモンド
視覚効果:ダグラス・トランブル
音楽:ジョン・ウィリアムス
美術監督:ジョー・アルプス
編集:マイク・カーン
【作品情報】
上映時間:75分
製作年:1977年
参考文献
『E.T. 20周年アニバーサリー特別版』パンフレット
『未知との遭遇』パンフレット
関連作品①:『遊星からの物体X』
「未知の生命体」との遭遇をテーマにしながらも、『未知との遭遇』とは正反対に描き出す名作が『遊星からの物体X』である。
「こんなファーストコンタクトはいやだ!」と漏らす人は多いはず。
人類 vs 宇宙人の熱いバトルが見たい方にはかなりおすすめの作品だ。
SF作品で宇宙人が登場するといえばのド定番の作品だと個人的に思っている。
リメイクもされているが、まずはぜひ1作目をご覧ください。
関連作品②:「未知とのそうぐう機」(『ドラえもん』より)
「SF(=すこしふしぎ)でおなじみの藤子・F・不二雄先生も、本作の影響を大いに受けていた。
その作品が「未知とのそうぐう機」である。
のび太がドラえもんの道具を使い、遠く離れた宇宙人(ハルカ星人)を何度も理由なく呼び寄せて怒らせるお話だ。
ハルカ星人のご機嫌を取るために、のび太とドラえもんが、冷や汗をかきながら接待する姿が個人的にはお気に入り。
ほぼタイトルが元ネタそのままなところも、F先生のスピルバーグ愛を感じて大好きである。
「異星人との価値観の違い」をドラえもんワールドで描くとこうなるのかと感心してしまう。
『未知との遭遇』の鑑賞後であると、きっと味わい深い作品となっているはずだ。
オチがお見事!
関連作品③:『E.T.』
『E.T.』はもともと『未知との遭遇』の撮影中、子供たちと楽しそうに交流するスピルバーグの姿を見て、トリュフォーが「君は子供たちの映画を作るべきだ」と言ったことが発端であると言われている。
『E.T.』が完成し、カンヌ映画祭で上映され喝采を浴びた際、トリュフォーはスピルバーグに一通の電報を出した。その文面は「君は私よりここにふさわしい」というもので、これは『未知との遭遇』でトリュフォー演じるラコーム博士が主人公ロイ・ニアリーに言うセリフ。
『E.T. 20周年アニバーサリー特別版』パンフレットより引用
まるで映画のワンシーンのようなこのエピソードに私は感動した。
名作は観れば観るほど作品同士の環が繋がっていく。そのことを目の当たりにした瞬間であった。
「名作BAR」のメニューには『E.T.』もあるので、この機会にぜひ注文してみてはいかがでしょう。
それでは、次の名作でお待ちしております。
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