暴走する自我の行方 『PERFECT BLUE パーフェクト・ブルー』

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いらっしゃいませ。

名作BARのMasterYです。

本日の名作は『PERFECT BLUE パーフェクト・ブルー』となっております。

「もう1人の私」が「私」を追い込む。そして、現実と幻想が徐々に曖昧になる「私」。本作は、そんな主人公の身に巻き起こるホラーサスペンス劇です。観る者の心を揺さぶる衝撃の1作となっています。

それでは、本日の「名作BAR」開店です。

物語の概要

事務所だけでなく、彼女自身も渇望する「アイドルからの脱皮」を目標に、我慢しながらも次々ときつい仕事をこなしていく未麻。

彼女は、アイドルとはまるで正反対の仕事をしていく毎日に、次第に自分を見失い始める。ある日を境にアイドル時代の自分の「幻影」が見え始めるのである。

本当の「私」って一体。この問いに対して真剣に思い詰めてしまう未麻。彼女がこうして自分を見失っている間にも、着実に彼女への魔の手が迫っているとは知らずに…。

そして、衝撃の展開があなたを待ち受ける。

本作の魅力

劇中劇「ダブル・バインド」の内容を劇中世界の出来事と見事にリンクさせる演出は、非常に凝られており素晴らしかった。

そして、結末を予想し難いストーリー展開も秀逸だ。見応えある本作のストーリーに観る者は思わず息を呑むことになる。

それほど、映画の世界へと引きずり込まれる非常にパワフルな作品であるのだ。

実写映画では、真似出来ないアニメーション作品の傑作である。今敏監督であるからこそ、このような素晴らしい作品が完成したのであろう。

観る者の頭を混乱させる現実と幻想を入り交えた不安定な世界。こんなストーリーをどうやったら考え出せるのか。作り手の頭の中をじっくり覗き込んでみたいと思うばかりだ。

また観る者を不安にさせるような音楽が、物語を厚みあるものへと押し上げる。こうした立体音響の「音」が、本作のリアリティさを一層引き立てるのだ。

緻密で秀逸な脚本、そして、圧倒的な「音」の存在感。これらがアニメーション映画の本作に実写映画の「息」を吹き込み、リアリティ溢れる作品へと変貌させる。

私のおすすめポイント

何が現実で何が幻想であるのか。観ていてだんだん分からなくなってしまう。だからこそ、「あの場面はこういう意味ではないか。いや、単なるミスリードかもしれない」などと、自分なりに様々な解釈をすることができる。

これがものすごく楽しい。自分の解釈がピタリと当たったときのあの嬉しさや爽快感といったら、もう最高である。

自分の解釈が外れていたとしても、「うわっ、そうきたか!」と鳥肌が立ってしまうので、ずっと楽しい。

要するに本作は、1つの作品であるにも関わらず、多様な解釈を楽しむことができるのだ。そこが本作最大の特徴である。

私の中で本作を1番気に入っている所もまさにそこであるのだ。

おわりに

本作は、誰かと一緒に鑑賞することを推奨する。なぜなら、鑑賞後すぐに自分なりの解釈をお互いにぶつけ合うことができるからだ。

鑑賞後、きっと誰かに自分の思ったことを無性に話したくなるに違いない。

エンディングを迎えてもなお、いくつかの疑問が頭から離れない。このように本作は、非常に後を引く作品であるので、考えすぎて眠れなくなるかもしれない。

なので、これから観る人は考え過ぎにご注意を!

本日の名作『PERFECT BLUE パーフェクト・ブルー』

『PERFECT BLUE パーフェクト・ブルー』(1997)

【キャスト】
霧越未麻:岩男潤子
日高ルミ:松本梨香
田所:辻親八
内田守:大倉正章
手嶋:秋元羊介
渋谷貴雄:塩屋翼
桜木健一:堀秀行
落合恵理:篠原恵美
村野:江原正士
監督:梁田清之
矢田:古澤徹
雪子:古川恵美子
レイ:新山志保
土居正:陶山章央

【スタッフ】
原作:竹内義和
脚本:村井さだゆき
監督:今敏
演出:松尾衡
キャラクターデザイン:濱洲英喜、今敏
作画監督:濱洲英喜
美術監督:池信孝
色彩設計:橋本賢
撮影監督:白井久男
音響監督:三間雅文
アニメーション制作:マッドハウス / オニロ
制作プロデューサー:丸山正雄 (マッドハウス)、井上博明 (オニロ)

【作品情報】
製作国:日本
製作年:1997年
上映時間:81分
受賞歴:カナダのファンタジア国際映画祭 グランプリ受賞 (1997年)
    ポルト国際映画祭 ベストアニメーション受賞 (1998年)

(出典 : 【YouTube】MadhousePlus パーフェクトブルー 予告 / Perfect Blue Trailer)

関連作品 ①『妄想代理人』3話「ダブルリップ」

『妄想代理人』(2004)
シリーズ構成:水上清資 / 総監督:今敏 / アニメーション制作:マッドハウス
3話「ダブルリップ」
脚本:水上清資 / 絵コンテ:高橋敦史 / 演出:遠藤卓司
作画監督:赤堀重雄 / 美術監督:河野羚

「晴美とまりあ」という二重人格の女性が主人公である「ダブルリップ」。晴美の幸せに嫉妬し、互いの生活に介入しないという境界線をまりあが超えてしまう。こうして「もう一人の私」に「私」が徐々に飲み込まれる。先の展開が読めない非常に完成度の高いエピソードであった。

「『パーフェクト・ブルー』へのセルフオマージュ」と今敏監督自ら公言している有名なエピソードでもある。

内容的には3話は「パーフェクトブルー」……へのオマージュか。自分の過去作品にオマージュというのもどうかと思うが、私の監督作品を見てきてくれた人にだけ分かるサインのつもりでもある。

KON❜S TONE 妄想の五「唇からトンカチがパラパパッパパー」より引用
https://konstone.s-kon.net/modules/moso/index.php?content_id=17

『妄想代理人』のアニメシリーズは、1話ごとに今敏監督による解説がブログで公開されている。アニメ鑑賞とセットで作り手側の裏話も楽しんでみてはいかがだろう。

妄想の五「唇からトンカチがパラパパッパパー」 - KON'S TONE
アニメーション監督 今 敏 のオフィシャル・サイト

関連作品② 『ブラック・スワン』

『ブラックスワン』(2011)
脚本:マーク・ヘイマン、アンドレス・ハインツ、ジョン・マクローリン / 監督:ダーレン・アロノフスキー

今敏作品に影響を受けすぎた「ダーレン・アロノフスキー監督」の集大成。『パーフェクト・ブルー』の実写化版権を購入したが、結局実現せずにたどり着いたのが本作の『ブラック・スワン』と個人的に解釈している。

随所随所に散りばめられた今敏監督へのオマージュの数々を、あなたはいくつ見つけることができるか。ストーリー展開はもちろんのこと、ナタリー・ポートマンの熱演にも最後まで目が離せない名作だ。

(出典:【YouTube】シネマトゥデイ「映画『ブラック・スワン』予告編」)

関連作品③『スローターハウス』

『スローターハウス』(1975)
脚本:スティーブン・ゲラー / 監督:ジョージ・ロイ・ヒル

時間を超越してさまよう男性を描いたSF小説を実写化した作品であり、監督は『明日に向かって撃て!』、『スティング』で有名なジョージ・ロイ・ヒル。

自らの意思と関係なく自分の過去・現在・未来をとびまわるようになった主人公が、戦争での捕虜体験、飛行機の墜落事故など、さまざまな出来事をさまよう物語である。

今敏監督にとっても本作はとてもお気に入りの作品らしく、インタビューでは次のように語っている。

「パーフェクト・ブルー」や「千年女優」において描きたかった「普通と違う時間感覚」、「主観による時間」という言い方ができると思いますが、これはジョージ・ロイ・ヒル監督の『スローターハウス5』に触発された面が大きいと思います。
本人の中では、現在も未来も過去も同時にあるという感覚、そしてそれを具体化し得た映像表現は大変素晴らしいと思います。

KON❜S TONE Interview01 2002年12月オーストラリアから、主に「千年女優」に関するインタビューより引用
https://konstone.s-kon.net/modules/interview/index.php?content_id=2

彼の作品で重要なモチーフである「夢と現実」のシーン替わりも、『スローターハウス5』の影響を大いに受けているに違いない。今敏作品への理解をさらに深めたい方にはおすすめの1作である。

(出典:【YouTube】Rotten Tomatoes Classic Trailers「Slaughterhouse-Five Official Trailer #1 – Valerie Perrine Movie (1972) HD」)

それでは、次の名作でお待ちしております。

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